国葬をやるなら弔意表明を国民に求めよ!【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国葬をやるなら弔意表明を国民に求めよ!【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」46

◆平和主義は売国への道

 すでに述べたとおり、統一教会の問題がクローズアップされた現在も、批判の大部分はナショナリズムをめぐる視点を欠いている。

 「国政に関わる者が、反日的な主義主張を掲げた勢力とつながりを持っていいのか」ではなく、「国政に関わる者が、多くの経済被害を出してきた勢力とつながりを持っていいのか」へと、論点がずれてしまうのです。

 「何が問題か、僕はよく分からない」と公言する政治家が出るのも無理からぬことと評さねばなりません。

 ほかならぬ安倍総理の名言にならえば、まさに「国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」です。

 

 とはいえナショナリズムこそ国政の大前提である以上、国境や国籍へのこだわりを捨てるとは、国政へのこだわりを捨てるにひとしい。

 これは国民の利益や幸福を追求しようとすることの否定を意味します。

 裏を返せば、売国への歯止めもなくなる。

 

 統一教会をめぐる問題が浮き彫りにしたもの、それは「平和主義の名のもと、対外依存を当たり前のごとく見なし、ナショナリズムをないがしろにする国では、売国を否定する理由もなくなる」というシビアな真実なのです!

 ここで思い出されるのが、18世紀イギリスの政治家・文人エドマンド・バーク。

 名著『フランス革命の省察』において、彼は同国の革命政府を厳しく批判しましたが、その中に「戦争の開始や終結を決める権限は国王に戻すべきだ」という旨のくだりがありました。

 理由は以下の通り。

 

 【これらの権限を王へ戻すことは、明らかなリスクを伴うとしても、それを十分に埋め合わせるだけのメリットを有する。

 【こうでもしないかぎり、ヨーロッパ諸国のいくつかは、国民議会(注:革命政府の最高機関)のメンバーと個人的なパイプをつくり上げることで、フランスの政治に必ずや介入しようとするだろう。やがては国家の中核に、恐ろしく有害な勢力が台頭することになる。外国の指令のもと、その利益のために動く勢力だ。】(エドマンド・バーク著、佐藤健志編訳『新訳 フランス革命の省察』、PHP文庫、2020年、292293ページ)

 

◆弔意表明を求めない国葬はゴマカシだ

 政治とは複雑なもの。

 統一教会と関わってきた議員諸氏も、同教会の指令のもと、その利益のために(のみ)動いたわけではないでしょう。

 

 ただしバークの言葉を「アメリカの指示のもと、アメリカの利益のために動く」と読み替えれば、これは戦後日本、わけても平成以後の日本の政治をめぐる、なかなか的確な要約となる。

 『感染の令和 またはあらかじめ失われた日本へ』の第二部「黄昏の現地妻国家」で論じたとおり、われらの安倍総理も、日米貿易交渉においては、先方の意向に沿おうとするあまり、自国民を実質的に騙すような振る舞いを見せたのです。

 

 さてお立ち会い。

 安倍総理については、927日に国葬が行われることが閣議決定されています。

 ただし世論調査を見ると、国葬をめぐる賛否は分かれているうえ、賛成派が減ってゆく傾向が目立つ。

 

 8月20〜21日、毎日新聞と社会調査研究センターが行った調査で、賛成と答えた者は30%。

 反対は53%です。

 

 同じ8月20〜21日、産経新聞とFNNが行った調査でも賛成は40.8%。

 反対は51.1%でした。

 

 なるほど、安倍総理が国葬に値するかどうかは微妙なところ。

 戦後の総理大臣では、安倍晋三の前に吉田茂が国葬となっていますが、吉田茂の場合、最初に総理となった1946年と、最終的に退陣した1954年を比べれば、日本の状態は格段に良くなった。

 何と言っても独立回復をなしとげましたし、戦災からの復興もおおかた達成したのです。

 

 片や安倍晋三の場合、最初に総理となった2006年と、最終的に退陣した2020年を比べて、日本の状態が良くなったとは評しがたい。

 否、少なからず悪くなったのが実情でしょう。

 国政の目的が国益を満たすことであり、経世済民の実現だとすれば、安倍総理は在任期間の長さにもかかわらず、結果を出せなかったのです。

 しかも「保守のナショナリスト」と目されながら、反日的な教義を掲げ、多くの社会問題も引き起こした宗教団体と懇意にしていたと来る。

 国葬にするのはふさわしくないことになります。

 

 けれども戦後日本の本質が「国家の否定」であり、ナショナリズムならぬ対外依存によって経世済民を達成しようとすることだとすれば、安倍総理こそは国のあり方をみごとに体現した指導者であり、在任期間の長さもあいまって、まさしく国葬にふさわしいとも考えられる。

 どちらの立場を取るかは、人それぞれでしょう。

 た・だ・し。

 

 国葬は「国家の大典(重大な儀式)として国費で行う葬儀」のこと(広辞苑)。

 すなわち国を挙げて弔うのが本質です。

 岸田総理も「故人(安倍総理)にたいする敬意と弔意を国全体として表す儀式」と明言してきました。

 

 ならば国葬を実施するうえでは、欠かせない条件がある。

 国民にたいし、弔意の表明を求めること。

 当たり前じゃないですか。

 国民は「国全体」に含まれないとでも?

 

 ところがどっこい。

 松野博一官房長官は8月26日、「国民一人一人に弔意を求めるものであるとの誤解を招くことがないよう、(地方公共団体や教育委員会などに弔意表明を求める)閣議了解は行わない」と明言しました。

 2020年、中曽根康弘総理の内閣・自民党合同葬が行われた際には、表明を求めているにもかかわらず、です。

 

 今回の国葬、内閣・自民党合同葬よりも扱いが低い!

 どういう国葬ですかね、それは?

 

 それはまあ、賛成が半分にも達しない状態で国葬を行ったあげく、弔意表明まで要請した日には、ただでさえ急落している支持率がいっそう落ち込むのはまず確実。

 だとしても、国民に弔意表明を求めないまま(松野官房長官によれば、安倍総理への「政治的評価」も求めないのだそうです)、国全体として弔意を表すふりをする儀式など、ゴマカシ以外の何物でもない。

 

 国家を否定したうえ、それに直面することすらできない〈あらかじめ失われた国〉は、発展と繁栄を維持するどころか、指導者の葬式一つ、まともに出せなくなるのでありました。

 この先は次回、お話ししましょう。

 

文:佐藤健志

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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